『ゆびさきと恋々』は、聴覚障害のある大学生・糸瀬雪を描く作品である。彼女の日々は、長く沈黙と慎重な生活のリズム、そして自分には速すぎることの多い世界で意思疎通を図るために必要な努力によって形づくられてきた。大学では、相手に伝える手段として筆談やテキストメッセージに頼り、親友の藤白りんと行動をともにすることも多い。りんの存在は雪に安心感と安定をもたらすが、その一方で、そうしたリズムは彼女の世界を小さく保ち、思いがけないつながりに触れる機会を限っていた。
そんな彼女の日常は、同じ大学に通う波岐逸臣、りんの友人で、多言語を操る旅好きの青年と出会ったことで変わり始める。逸臣はどこにいても自然体でいられるような人物で、雪の聴覚について知ったときも、ためらいではなく温かさと真摯な理解を示した。その優しさは彼女に深い印象を残す。やがて二人がともに過ごす時間が増えるにつれ、その結びつきは、小さな仕草、忍耐、信頼を通して育まれていく。『ゆびさきと恋々』は、コミュニケーション、自信、そして二人が互いの世界を静かに開いていく、穏やかで意味深い過程を描く恋愛作品である。